謎のタクシー運転手。

個人事業主が何気に堪えるのは旅費・交通費。当たり前だが動けば動くほどかかる変動費。サラリーマンの時のように、何も考えずに、”ヘイ！タクシー！”なんて今やできません。しかし、どうしても時間を節約すべきときには潔くタクシーを使います。昨日はそうでした。

蒸し暑かった。タクシーの車内も外と変わらない温度。行き先を告げ、顧客先での打ち合わせをイメージしながら静かに外を眺めていると、運転手が自然に話しかけてきた。

「お客さん、どんな仕事してるの？」

「企業の社員教育のお手伝いです」

「 ほう、まだ若いのにいい仕事してるね。企業は人次第だからね、コンサルティング？」

「はぁ、まぁそんな感じです、自営業で。」

１０秒ぐらいの間。

「気楽にやることだね。森羅万象、気楽に気楽に・・・長続きするコツだよ。拡大よりいつも充実を考えるといいよ・・・はい、着きました」

この運転手何者⁈ 何かの自己啓発本に登場してきそうな「メンターおじさん」みたい。かつて商売というか経営をされていたのだろうか、この１メッセージは妙に説得力があった。

「気楽にやる」「拡大より充実を」。

付け焼き刃の言葉ではなく、様々な経験（失敗の）から凝縮されてにじみ出てきた言葉に思えた。下車して真っ先にメモした。今私がもっとも欲しい深く考えたいキーワードだった。

やはり人は必要なタイミングで必要な人に出会うべくして出会うものなのだろうか。

名も知らぬ謎のタクシー運転手。

領収書はしっかりもらっているが、顔はまったく覚えていない。通りすがりの人に的を得たコンサルを受けたかのようなわずかな時間。

私はまだまだ修練中だが、一期一会で相手のハラにストンと落ちる言葉を手渡せる人に憧れる。

もう二度と会うことはないだろう。謎のタクシー運転手。

今日も誰かに至高の言葉をプレゼントしているのかもしれない。