KOMA NOTE

”軽やかにシンプルに生きていく”考え方や実践をフリーランスの人材育成クリエイターがつづります。

大事なのは、その先なのだ

「社員とちょっとしたプチ打ち上げするからおいでよ。」
顧客先の社長に誘われた。

 

お店は、北新地にある天ぷら屋さん『おばた』。

 

箕面の畑からとれた新鮮な野菜、活きのいい魚介類を天ぷらでいただく。
天ぷらの幅の広さ、深さを改めて感じた。
はぁ。もう最高に美味しい。
白ワインが天ぷらに妙に合う。

店内はカウンターだけなので、大将と会話しながら食事ができる。
ふと、天ぷら粉を混ぜる大将の手つきがまるでギターを弾くかのような軽快なリズム音を放っていたことに目が行った。

「すごっ!大将、まるでギターを弾いているみたい」


「・・・はい、かつて弾いていました」

 

少し照れくさそうに彼は言った。

「実はずいぶん昔、シャ乱Qと同じ事務所にいてましてね」

 

「へ〜プロだったんですか。」

 

束の間、彼は黙り込んだ。

 

「・・結局、芽がでなくてマネージャーとして裏方に回りました。でもマネージャーとしてもなかなか性に合わなくて、そのときつんくさんからお店をやってみては?と違う道を勧められたんです」

 

「で、料理人の道へ?」

 

「はい。新宿のお店で修行したのちに、この店を持ちました。
結局、わたしもつんくさんにプロデュースされた一人です、あっはっは」

 

大将の鉄板ネタなのだろう。


どれだけ技術があっても、突破できない壁はある。
ある思い出がよみがえった。
高校生のとき、ぼくはサッカーに夢中だった。
ある練習試合で県内の強豪校とやった。試合でプロ候補と目されていた一人の選手(同い年)にまったく歯が立たなかった。子供のようにあしらわれた。


はじめて圧倒的な実力差を感じた。
実力差やセンスの差もそうだが、一番悔しかったのは「気持ちの差」に気がついてしまったことだった。
ぼくにとっては部活の練習試合だけど、彼はすでにプロ意識の塊だった。


「単なる技術だけじゃない。結局は気持ちだ。」

僕は彼からそれを学んだ。そこでぼくはサッカー以外の道も考えるようになった。

 

大将は若かりし頃、歌という自己表現の手段で夢を追った。
しかし、夢は必ず実現するわけではなく、むしろその夢と決別しなければならない瞬間が人生では数多ある。

 

大事なことは、夢敗れしとき、どう自分を支え前を向いていくのか。
彼はギターを置き、歌ではなく今は料理という手段で自己表現をしている。

料理もアートだ。
大将の揚げる天ぷらには、気持ちがこもっていた。だから、最高に美味しい。

 

どんな状況になろうと、表現したい世界がある。伝えたい相手がいる。
そのじぶんの気持ちに忠実である限り、大将はずっとアーティストだ。

 

やはりテクニックではない。気持ちなのだ・・そう呟きながら新地を後にした。
ぼくの「また行きたいお店リスト」に登録されたのは言うまでもない。

 

 

天ぷら屋 おばた

https://tabelog.com/osaka/A2701/A270101/27059716/